テナントと賃貸借契約を締結する際、家主様や地主様の立場から見て、特に気をつけたいのが「抵当権」に関する条項です。今回は、賃貸借契約書の中でも特に質問が多いこの抵当権について、家主様側の視点から交渉術のポイントを解説します。
賃貸借契約書における抵当権の位置づけ
賃貸借契約書には、テナント様の「勝手に改装してはいけない」とか「転貸してはいけない」といった禁止事項がほとんどです。しかし、家主様に対する唯一の禁止事項として書かれているのが、この抵当権の設定だと言っても過言ではありません。それだけに、家主様からすると不安に感じる点であり、契約時によく質問される項目なのです。
具体的には、「本契約書締結後、引き渡しを終えるまでは建物及び敷地について抵当権など乙の賃借権に優先する権利の目的にしてはならない」といった条項や、「本契約締結時に敷地に対して抵当権などが設定されている場合、甲は本物件の建設に着手するまでに消滅させなければならない」といった内容が記載されます。
抵当権設定の「時期」が交渉のカギ
抵当権の交渉において最も重要なのは、「いつ」抵当権が設定されるかという時期の区別です。この時期によって、交渉の仕方が大きく変わってきます。この時期を以下の3つに分けて解説します。
- A: 契約締結前(例:2月より前)
- B: 契約締結後、賃貸借開始前(例:2月~7月)
- C: 賃貸借開始後(例:7月以降)
A: 契約締結時の抵当権について
契約を締結する時点で、すでに物件に抵当権が設定されている場合です。この情報は、登記簿謄本で事前に確認することができます。そのため、通常は契約締結時に問題となることは少ないとされています。
対処法としては、主に以下の3つの方法が挙げられます。
- 抵当権を消滅させる
- 抵当権者から優先順位の譲位を受ける
- テナントが抵当権がついていることを了承する
いずれにしても、契約締結時にはすでにテナント様と話し合いができており、解決済みであるべき内容です。
C: 賃貸借開始後の抵当権について
テナント様の賃借権がすでに発生し、物件の引き渡しや開店が済んだ後の7月以降に設定される抵当権のことです。この場合、テナント様の賃借権の方が後から設定される抵当権よりも優先されるため、家主様が抵当権を設定しても特に問題はありません。
賃貸借契約期間中(例えば10年や20年といった長期にわたって)物件を抵当権の目的としてはならない、という雛形が提示されることもありますが、家主様側としてはこれを認める必要はないと考えられています。
B: 契約締結後、賃貸借開始前の抵当権について
この期間(例えば2月から7月の間)の抵当権設定が最も重要であり、家主様が承諾すべき点です。
テナント様の立場からすると、契約締結前の抵当権(Aの期間)は謄本で確認できるため、内容を理解した上で契約を結んでいます。しかし、Bの期間に設定される抵当権は、契約締結後に設定されるため、テナント様にはどのような抵当権か分かりません。さらに厄介なのは、この期間に設定された抵当権は、賃貸借開始前であるため、テナント様の賃借権よりも優先されてしまうという点です。
そのため、この「契約締結後、賃貸借開始前」の期間における抵当権の設定禁止については、テナント様の言い分も理解できるため、家主様も承諾しなければならなりません。
まとめ:時期を意識した交渉を
賃貸借契約書における抵当権の設定については、その**「禁止される時期」が非常に重要**であることがお分かりいただけたでしょうか。この時期に注意を払いながら、テナント様と賃貸借契約の条項について交渉を進めることが、円滑な契約締結につながります。
地主様や家主様の賃貸借契約に関するお悩みを解決する一助となれば幸いです。
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